東又~平杭乗越~滝倉山(劔岳北方稜線)

 いつからか意識しだした劔岳北方稜線。宇奈月温泉から劔岳までの稜線をつなげようと、何回も分けて入山していた。北方稜線で一番の難関と思っているのは、滝倉山~平杭乗越の間である。その間にはウドノ頭があり、場合によってはロープが必要らしい。

 私には、その間が最後の北方稜線であった。いつやるか・・・!10月のこの時季、今年はまだ雪がきそうにない。天気予報も3日間は晴れるらしい。ならばこの10/8~10/10がチャンスか!コースは、東又谷から入渓して、いつもの二俣でテント泊。2日目は二俣から平杭乗越~ウドノ頭~滝倉山~B2まで。3日目はB2~赤倉尾根~B1~東又谷へゆっくりと下山という計画でスタートした。

2021年10月8日~11日 ルート図

第1日目(10月8日)

 東又谷は何回も通っている。様子もわかっているし、テン泊する場所は大清水と平杭谷の二俣にいい場所がある。そこまでは気が楽である。途中の核心部となる三階棚滝には、昨年行ったときに設置したロープが残されているはず。気持ちよく片貝からスタートした。

東又谷入渓地点。

 すぐに赤倉谷が現れる。この奥に小さいが滝があり、その滝はちょっと難しい。ここも遡行済みである。楽しかったなあ~。

 しばらく進むと左岸からモモアセ谷。滝が多い谷だ。

 この岩が出てくると、東又谷の核心部である三階棚滝が近い。ここを右に回り込む。

 いよいよ現れた三階棚滝。今日は水が少ない。この滝の右手を大きく巻く。ロープがないと巻けないのだ。登りは古い残置ロープを利用。

 下りは、昨年残置したロープで懸垂下降をした。

 三階棚滝を無事クリア。東又谷を進んで行くと、ウドノ頭が見えだした。明日の核心部だ。

 三階棚滝を過ぎると、左岸から流れ落ちる弁ノ寺滝。

ヨツバヒヨドリ

ウメバチソウ

 左岸から流れ込む小清水。この先にテント場がある。

リンドウが一輪。

ダイモンジソウ

ナデシコだろうか?

ツリガネニンジン

ヤマハハコ

アキノキリンソウ

ミヤマコウゾリナ

ヤマアジサイ

 たくさんの花を見ながら、いつものテン場に到着。ここは快適なテン場だ。大清水から毛勝山に登った時に初めて使用した。そして昨年、平杭乗越から西谷のノ頭を経て毛勝山に登った時も利用。ここは今回で3回目だ。

 焚火で1日の疲れをいやす。さてさて、明日はどうなることやら。

第2日目(10月9日)

 朝6時過ぎにテント場を出発。今日は、平杭谷を遡行し平杭乗越からウドノ頭を抜け滝倉山からB2まで行く予定だ。距離にすると大したことないが、藪漕ぎでルートはなく、ウドノ頭の先が、場合によってはロープが必要となるかもしれない。

 スタートしてすぐに右岸から流れ込んでいる貫ノ寺谷。

 平杭谷を遡行している最中に振り替えると、右に滝倉山、左に駒ヶ岳。あの滝倉山まで行くのだ。

 平杭乗越までは、これで3回目。なんと3回とも少しずつ違うルートを遡行しているのだから学習効果が出ていない?スタートから2時間ぐらいかかって平杭乗越に到着した。

平杭乗越の空。

さあ~今日の本番はここからだ。平杭乗越から滝倉山まで抜けると、劔岳北方稜線がすべてつながる。記念すべき日になるか!

 北にこれから目指すウドノ頭の前衛峰。山頂はこの奥になる。ここから先は藪漕ぎだ。

 途中後立山連峰がきれいに見えた。右から爺ヶ岳、五竜岳、唐松岳、白馬鑓ヶ岳。

 南には八ツ峰が。テンション上がるわ。

 遠くに滝倉山が見えだした。

 振り返れば劔岳と八ツ峰。

 ここを登り上げてウドノ頭のピーク。遠くから見た時に見えたように、西斜面は岩稜だ。どうやって抜けるんだろうか・・・。

 草付きを探してウドノ頭のピークに立つ。いつもの儀式。昨年毛勝ち山に抜けるとき振り返ってみて圧倒されたウドノ頭のピークに立てたことは感慨深い。

  ピークは藪で覆われていた。眺望なし。 ゆっくりしていられない。かなり時間が遅れている。先を急ぐ。

 ウドノ頭からいくつかのピークを経て滝倉山へ。まずはウドノ頭から地図上にある鞍部を目指していかなくてはならない。しかしその鞍部に続く尾根が分からないのだ。

 GPSで確認しながら、鞍部に続く尾根を降り始めるが、途中で確認すると鞍部から離れている尾根に乗っかっていた。引き返すしかない。この登り返しが大変だった。

 再度仕切り直し。慎重にGPSで確認しながら尾根を下る。しかしこのまま進んでも、今日は時間切れになる。気持ちがすごく焦る。追いつめられる気持ちってこうなんだ。落ち着かなくちゃ、と自分に言い聞かせる。仕方ないので、分岐する尾根の上の稜線まで戻りビバークすることにした。

 滝倉山は見えているのに、滝倉山に続く鞍部に降りる尾根が分からないなんて・・・。

 偶然にも心地よく過ごせるテン場が見つかった。明日は、滝倉山からB2を経由して下山できるだろう。重い荷物を背負っての過酷な藪漕ぎでぐったり。爆睡してしまった。

第3日目(10月10日)

 朝6時ごろスタート。テン場からは素晴らしい眺望が望めた。右は五竜岳、左が唐松岳。間もなく日の出だ。

 左が五竜岳、右が爺ヶ岳。

 昨日迷った地点に到着した。今朝は晴れているのでとにかく惑わされないように鞍部を目指せばいいのだ。しかし昨日と同じように最初の尾根を下り始めてしまった。やっぱりおかしいか?ふと左手を見ると、昨日はガスで見えなかった小さな尾根がある。あの尾根を下るんだ、きっと。その尾根を目指してトラバース。結果やっと成果のルートに出ることができた。

 鞍部に到着。気持ちが落ち着くがここまで3時間弱の時間を要してしまった。目の前に立ちはだかる岩稜群。ここを越えていくのだ。

 いくつかのピークでここが核心部。どこを登り上げようか。もう少し近づかないとルートが見えてこない。普段ならワクワクするのだが、今回の山行は1日遅れであり、時間との競争もあって緊張だ。落ち着かなければ。

 かなりの緊張を強いられながら急斜面を登り上げた。一歩間違えば、滑落して助からないだろう。登り上げたところに残置ロープがあった。ここを下るなら懸垂下降しかないだろう。核心部はこれで抜けただろう。

 一息ついて振り返ると、歩いてきたウドノ頭からの尾根と、その右奥には毛勝山が見えた。

 あとは近くなった滝倉山を目指すだけ。滝倉山まで行ってしまえば、何回か通っているルートに乗っかりB2まで行けると思う。

 滝倉山が、早くおいでと呼んでいる。

 しかし、ここから先もつらかった。激藪が続く。今日のうちに下山は無理。B2でもう1泊するようになるだろう。ならば唯一電波の通じる滝倉山山頂で連絡を入れなくては。翌日の仕事もキャンセル。こんなことは初めてだ。

 ヘロヘロになりながら、滝倉山に到着した。山頂では、2~3年前に石川の山友が設置したお地蔵さまが迎えてくれた。

 2021年10月10日 13:32 劔岳北方稜線がつながった。

 滝倉山山頂からの眺望も素晴らしい。紅葉が始まり、後立山連峰はうっすらとガスの中。

 滝倉山からB2を目指して下山に取り掛かる。何回か通っているルートなので、気が楽だ。陽に照らされた紅葉もいいなあ~。

 振り返れば滝倉山とその左奥には後立山連峰が。五竜岳と唐松岳がよく分かる。

 ここから先、笹藪が続くので道を間違えないように。とにかく暗くなる前に笹藪を越えてしまわなくては。時間との競争が激しくなった。6時ごろからはヘッデンの光を頼りに進む。しかし限界だった。暗がりでは藪漕ぎが難しい。ルーファイができないのだ。

 笹藪の中に平坦地を見つけてビバークとなった。今夜はかなり厳しい・・・。

第4日目(10月11日)

 よく眠れないまま朝を迎える。明るくなればルーファイがやりやすくなる。疲れ切って食欲もない。荷物をまとめてスタートした。天気予報は雨だが、幸いなことにまだ雨は来ない。雨の中を笹藪漕ぎはつらいから、本当に助かった。

 毛勝山が見えだした。

 夜明けだ。正面は駒ヶ岳。

 スタートして2時間ちょっとでB2に到着した。石川メンバーがB2にデポしておいてくれた水をがぶ飲み。途中で水がなくなって苦しかった。命の水が体にしみこんでいく。食欲は全くなく、お茶を沸かし何杯も飲んだ。

 ここまでくれば赤倉尾根をこのまま下ればいい。道も外れることはない。毛勝山の立派な姿。

 B2からの眺めも見納め。間もなく雪が来るだろう。

 赤倉尾根を下っている途中で見えた富山湾。

 赤倉谷を渡渉した。間もなく今回の山行は終了。

 北方稜線をすべて繋げることができた。一番の難関区間が最後になったのだが、達成できたのは、いい山友に恵まれたからだ。特に石川グループのMさんとKさんには感謝だ。何年か前に偶然出会って、それから交流をするようになった二人は、何年もかけて赤倉尾根のルートづくりをしてくれていた。そのルートがあったからこそ、今回の難所をクリアできたのだ。二人はB2に水をたくさんデポしてくれていた。その水にも助けられた。

 二人の存在が、私の登山の集大成の一つである劔岳北方稜線つなぎが実現したのだ。二人には、心から感謝です。