ここ2年ほど計画を温めていた南アルプスの坊主山。甲斐駒ヶ岳の真北に位置する2365mの登山道のない山である。
この山の存在を知ったのは、もちろん尊敬する南川金一氏の「山頂渉猟」である。また日本登山体系には、クライミングの対象となる坊主岩としても紹介されている。
天候不順で行先が直前まで決まらず、目標とした山域の中で一番安定しているのがこの坊主山であった。
いよいよ決行の時。
考えたコースは、矢立岩をスタートとし、日向山~大岩山~八丁尾根~烏帽子岳~六合小屋を第1日に。2日目は坊主山を狙いピストン。3日目は黒戸尾根を下山。その際にやはり登山道のない黒戸山のピークを踏むというものだ。
初日の長い行程には、何度か心が折れそうになった。
実は何年か前に矢立岩から八丁尾根の途中まで日帰りピストンをしている。その時の快適さとは違って、重い荷物にふうふう言いながらの一歩一歩は本当につらかった。大岩山を過ぎてからは、心が固まった。もう引き返せない。行くしかない!
実に10時間かけて六合小屋に到着した。10人は収容できる無人小屋である。この夜は4人の登山者でゆっくりと泊まれた。真夜中に大雨。
メインとなる2日目は、朝からガスっていて視界が悪い。
雨さえ降らなければ・・・と思いつつ、ガスで目指す坊主山の姿が見えない。甲斐駒ヶ岳への途中から坊主尾根の左の沢筋を目指して下降していくのだが、這松の群生をかき分けてやっと沢に出た。あまり大きくない沢であるが、ナメ滝になっていてその姿はス・テ・キ!って感じ。
やがて三角岩が見えてきた。
そこで坊主尾根に取り付いてしまったが、下山時に確認したところ、沢が二俣に分かれるところで取り付くのがもっと楽。おかげで、藪漕ぎを強いられへとへとになりながら先に進んだ。
三角岩、大岩の左を回り込み稜線へ。樹林帯になり少し楽になり先に進んでいくと切れたっている。ここからが分からない。
ガスが切れずにここで撤退か・・・。悔しかった。少しでも姿を現してくれれば多分行きつけただろう。霧雨が少し。悔し涙のようだった。
いつかリベンジ。
引き返しの這松の藪漕ぎも苦しかった。
この夜の六合小屋は10人の登山者。黄連谷を遡行してきたという2人組のパーティーがまぶしかった。
3日目。
天気は良くないが、ガスはなく、しっかりと坊主山のルートが手に取るように分かった。なんとなくもやもやした気持ちを抱えながら、次回のために、何度もルートを頭の中に叩き込んだ。
甲斐駒ヶ岳の山頂からは、以前に登っている鋸岳を中心に、これまた登山道のない編笠山と嫦娥岳(じょうがだけ)を確認できたことは嬉しかった。特に嫦娥岳(じょうがだけ)は南川氏に褒められた山であるだけに。
黒戸尾根を下り七丈小屋に到着。
冷えているビールがあって、感謝しながら1本流し込んでしまった。管理人さんに「どこから?」と聞かれ「八丁尾根経由で、昨日は坊主山ピストン。途中で断念でしたけれどね。」といったら、「坊主山!登山道はないよね。」「ありません」との会話に少し気持ちが和んだ。坊主山といっても知らない人が多いから・・・。
その管理人さんに黒戸山の様子を聞いて出発。無事ピークを踏んで無事終了点の竹宇駒ヶ岳神社に到着した。
思い返せば、やはり充実した3日間だった。
坊主山、いつかリベンジ!!!
鞍掛山への分岐についた。以前に鞍掛山のピークは踏んでいるので先を急ぐ。
ここから先はますます足跡は見えない。こんな林の中を静かに進む。
大岩山に到着。ここまで何度も心が折れそうになった。しかしもう戻れない。行くしかない!この先のルートはほとんど人は歩かないが面白いコース。なんせ長いもんね!。
ロープや鎖が設置しており、ここは階段が設置されたから簡単に下れる。以前はロープ持参が必須。
坊主山が見えた!ヘロヘロだったのが一気に元気になる。左の岩峰が北坊主岩。手前が西坊主岩。
烏帽子岳に到着。ここまで八丁尾根。長かったなあ~。ここから先は以前に歩いているので気が楽。
三ツ頭分岐。ここから六合小屋までは30分ぐらい・・。と思ったが約50分かかってしまった。
甲斐駒ヶ岳に向かう途中の鞍部から坊主山を目指して一気に下るのだが・・・。ガスで坊主山の全容が確認できない。ということはルート取りが難しい。
沢筋に出た。しばらく下ると水が流れ、こうしたきれいなナメ滝が続いていた。
日本登山体系にも載っている三角岩が見えてきた。この三角岩の基部を左から右に回り込んで尾根に取り付き稜線へ。しばらく進むと樹林帯になり、稜線上をどんどん進む。しかしガスで坊主山は姿を現さない。ギャップにぶち当たり、やや左の斜面を下り気味に進むが視界ゼロのためここで撤退。無念の涙が雨に変わった。
来たルートをほぼ忠実に戻るが、三角岩のところで直に沢に降りた。このほうが楽であった。坊主山を目指すときには、沢に出たら二俣が一つになるところまで沢を下り、そこから右手の尾根に取り付くと少しは楽だ。次回のための学習。こうした藪漕ぎでヘロヘロ。南川氏は天気が良い日のこのような藪漕ぎで、熱中症になりかけた(?)
8月14日
早朝。八ヶ岳。中央に赤岳がそびえている。一番左は蓼科山。
坊主尾根と坊主山。昨日これだけはっきり見えれば、ピークを踏めただろう。残念。次回のために地形を頭に入れた。一番右は南坊主岩。主峰の北坊主岩(坊主山)は三角岩稜線上のピークの右に小さく見える。
坊主山。右から3つ目の小さなピークが山頂。一番右は南坊主岩。
手前から坊主尾根、烏帽子中尾根、そして初日に歩いた八丁尾根。
正面に鋸岳第一高点。右奥に編笠山、一番左に嫦娥岳(じょうがだけ)。
甲斐駒ヶ岳の山頂に到着。さすが人気の山。早朝にもかかわらず登山者がいた。
黒戸尾根を下山中、登山道から外れた道のない黒戸山の登りにかかる。登り口の目印。このすぐ横から尾根に取り付くとよい。