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≪ 北アルプス硫黄岳NO3  ¦ トップページ ¦ ヘルメット ≫


滑落
 硫黄岳を目指して急斜面に取り次いでから約1時間、順調にかなりの高度まで登ってきていた。
 浮石も多かったが、草付や木をうまく利用して特に苦労はなかった。ただステップを自分で切らないと足が定まらない。しかしなんら危険を感じることなく上へ上へと目指していた。

 突然、右手で持った岩がポロリと土壁から離れ、持ちかえようとしていた左手は空をつかみ、体がゆっくりと宙に投げ出された。
 体が横になって回転しながらどんどん下に落ちていく。
 
 「あ〜、せっかく登ったのにどこまで落ちていくんだろう。また登り返しか・・・。」
 なんて考えながらも体が止まらない。
 「どうするか。どう止めるか!」なんて思った瞬間に倒木を乗り越えてやっと止まった。

 ふ〜。
 怪我のことは全く考えなかった。それよりも登り返し!なんてことが頭を横切り、駆けつける仲間に立ちあがって手を振る自分。

 なんとまあ〜である。
 
 メガネは飛ばされた。サブザックはズタズタになった。ヘルメットは割れた。熊よけ鈴もなくなった。手に引っ掛けていたストックは無事だった。
 怪我は・・・というと、顔右半分に打ち身と擦過傷。からだ左半分に打ち身と左手左足に擦過傷。痛みは擦過傷の痛みだけ。

 気持ちも落ち着いて自分を観察。
 大丈夫。骨折のことは一切頭になかった。下山しようという仲間に、硫黄岳の山頂にどうしても立ちたい思いが勝った。
 
 その後は何の支障もなく硫黄岳の山頂に立てたのだ。

 ヘルメットが自分を守ってくれた。
 もしヘルメットをかぶっていなかったら、終わっていただろう。ぶつかった倒木も朽ちかけていて柔らかかった。堅かったら骨折していたかもしれない。急斜面を転がる途中に岩はなかった。岩にぶつかっていたらどうなっていたか・・・。

 下山後当番医ドクターに診察をしてもらった。
 頭のCTも撮ってもらい、結果一切異常なし。ただ顔の擦過傷と打ち身の後、手と足の擦過傷の治療に通院が続いている。
 しばらくはマスクを外せないだろう。内出血で黒くなってしまって・・・。

 自分を守ってくれた割れたヘルメットは絶対に捨てられない。感謝。




 クモマグサに出会えてよかった。絶対に無事に帰らなくてはいけない。

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07:17, Saturday, Sep 26, 2015 ¦ 固定リンク

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