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遺されたもの
 人間はいつかは死と向かい合います。「生まれたときから死に向かって歩んでいくのだ」ともいわれます。

 自分が「林住期」にある今、仕事上のことも含めて、かなりの死に出会ってきました。
 その人との別れが癒されないうちから、その人の身の回りの整理をしなければならないやるせなさが、ある面ではその遺された人を少し前向きにするんだということも見てきました。

 相続税の申告期限が10か月と限られているので、税理士としては、遺族の方の悲しみの中に入り込む辛さをちょっと持ちながらも、ある面では機械的に進めなくてはならない割り切りも必要です。

 相続が発生して4か月。このご家族とは古い知り合いで、亡くなった方(夫)の所得税の申告を担当していました。10年ほど前に倒れ、お見舞いに行った時「先生、絶対に元気になってやるからな。」と力をこめて話してくれたのを今でも思い出します。
 そんな思い出話をしながらする相続の手続きは、チョットしたことで残された配偶者(妻)と涙を流しあってしまいます。

 預金の動きがどうしても分からないところがあり、相続人である妻と一緒に金融機関へ行きました。時間はかかりましたが、その場で一つ一つ調べてくださり、不明点は解決しました。その際に、被相続人の筆跡が残る伝票が目に留まったのです。もうそれを見ただけで、二人で涙ぐみ、きっと担当者は内心困ったと思います。
 
 思わぬところで遺されていた被相続人の足跡。とても大切な秘宝を発見したような気分でした。そしてこの秘宝は、仮に家族が処分したくても処分できないし、手に入れたくても手に入れることができないという、しかし確実に何年かは、この金融機関に保管され続けるものです。
 
 決して手に入れることのできない「遺産」がこの世に存在することに、初めて気が付きました。
 
04:53, Tuesday, Apr 14, 2009 ¦ 固定リンク

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